K8s入門:脱・おまじない!現場で役立つ学習法

インフラ・DB

「Kubernetes(K8s)って名前は聞くけど、複雑でどこから手を付ければ良いか分からない…」そんな風に感じていませんか? 100万PVの技術ブログ運営者であり、10年以上の現場経験を持つリードエンジニアの私も、最初は同じように感じました。K8sは確かに学習コストが高いですが、現代のシステム開発・運用において、避けて通れない重要な技術です。この記事では、K8sの基本的な概念から、ローカル環境での効率的な学習方法、現場で役立つ実践的なテクニック、そして私が実際に経験した失敗談まで、私の経験に基づいて徹底的に解説します。K8sを「おまじない」ではなく、自信を持って使いこなせるように、一緒にステップアップしていきましょう。

この記事で得られる解決策

  • Kubernetesの基本的な概念を理解し、マイクロサービスアーキテクチャにおける役割を説明できるようになる
  • ローカル環境でKubernetesクラスタを構築し、基本的な操作(Podのデプロイ、Serviceの公開など)を実行できるようになる
  • Kubernetesにおける一般的なアンチパターンを認識し、Resource Limits/Requests、Liveness/Readiness Probeなどの設定を適切に行えるようになる
  • ConfigMap/Secretを使った設定管理、Ingressを使った外部公開、HPAを使った自動スケーリングなど、現場で役立つ実践的なテクニックを習得し、自身のプロジェクトに適用できるようになる
  • Kubernetesに対する苦手意識を克服し、自信を持ってKubernetesを使いこなし、チームに貢献できるようになる

Kubernetesとは? 基本的な概念を理解する

Kubernetes(K8s)は、コンテナ化されたアプリケーションをデプロイ、スケーリング、管理するためのオープンソースのプラットフォームです。なぜK8sが必要なのでしょうか? それは、マイクロサービスアーキテクチャの普及が大きく影響しています。マイクロサービスでは、アプリケーションが小さな独立したサービスに分割されるため、それぞれのサービスを効率的に管理・運用する必要があります。K8sは、これらのサービスをまとめて管理し、自動的にデプロイ、スケーリング、ヘルスチェックを行う機能を提供します。

K8sの主要な構成要素は以下の通りです。

  • Pod: K8sにおける最小のデプロイ単位。1つ以上のコンテナをグループ化します。
  • Service: Podへのアクセスを抽象化し、外部からのアクセスを可能にします。
  • Deployment: Podのレプリカ数を管理し、ローリングアップデートなどを実現します。
  • Namespace: K8sクラスタ内のリソースを論理的に分割します。

ローカル環境でのKubernetes学習

K8sの学習を始めるには、まずローカル環境にK8sクラスタを構築するのがおすすめです。代表的なツールとしては、MinikubeとKindがあります。

Minikube: シングルノードのK8sクラスタを簡単に構築できます。VirtualBoxやDocker Desktopなど、さまざまな仮想化環境に対応しています。学習用途には十分な機能を提供します。

Kind: Dockerコンテナ上でK8sクラスタを構築します。軽量で高速に動作するため、CI/CDパイプラインでの利用にも適しています。

どちらを選ぶべきか迷う場合は、最初はMinikubeから始めるのが良いでしょう。GUIツールも充実しており、K8sの概念を理解しやすいです。

Minikubeのインストールと起動

Minikubeのインストール方法は、公式ドキュメントを参照してください。Minikube 公式ドキュメント

インストールが完了したら、以下のコマンドでMinikubeを起動します。

minikube start

初回起動時はイメージのpullに時間がかかる場合があります。気長に待ちましょう。起動後、以下のkubectlコマンドを使ってK8sクラスタにアクセスできます。

kubectl get nodes

これに加えて、`kubectl get pods -A` で全てのnamespaceのpodを確認したり、`kubectl describe node minikube`でノードの状態を確認すると、より理解が深まります。

Minikube起動時に、CPUやメモリの割り当てが不足していると、起動に失敗したり、クラスタが不安定になることがあります。`minikube start –cpus 4 –memory 4096` のように、`–cpus`と`–memory`オプションで適切な値を指定してください。もし起動後にリソース不足に気づいた場合は、minikubeを停止し、再度適切なリソース設定で起動し直す必要があります。VirtualBoxなどの仮想環境を使用している場合は、仮想マシンの設定でCPUやメモリを調整することも有効です。

【重要】よくある失敗とアンチパターン

K8sの学習で初心者が陥りやすいアンチパターンをいくつか紹介します。私自身も過去に経験した失敗談を交えながら解説します。

  1. Podを直接操作する: Deploymentを使わずにPodを直接作成・管理するのは避けるべきです。DeploymentはPodのレプリカ数を管理し、自動復旧機能を提供するため、安定したシステム運用に不可欠です。初期の頃、Podの挙動を理解するためにkubectl runで直接Podを作成していましたが、スケールやアップデートをDeploymentで管理することの重要性を痛感しました。Deploymentを使いこなすことで、運用負荷を大幅に軽減できます。
  2. Resource Limits/Requestsを設定しない: PodにResource Limits/Requestsを設定しないと、リソースの枯渇や他のPodへの影響を引き起こす可能性があります。必ず適切な値を設定しましょう。本番環境でResource Limits/Requestsを設定せずにデプロイした結果、一部のPodがCPUを過剰に消費し、システム全体のパフォーマンスが低下したことがあります。各Podに必要なリソースを見積もり、適切な値を設定することが重要です。
  3. Liveness Probe/Readiness Probeを設定しない: Liveness Probeは、Podが正常に動作しているかを監視し、異常があれば自動的に再起動します。Readiness Probeは、Podがトラフィックを受け入れられる状態にあるかを監視します。これらのProbeを設定しないと、サービスの可用性が低下する可能性があります。Liveness Probeを設定していなかったために、アプリケーションがハングアップした際に自動的に再起動されず、手動で対応する必要が生じたことがあります。Probeの設定は、システムの自己回復性を高めるために非常に重要です。

これらのアンチパターンは、特に複雑なマイクロサービス環境において顕著に現れます。以前、私がリードエンジニアとして関わったプロジェクト(従業員数500名規模のSaaS企業で、10名ほどのチーム構成)で、AWSのEKS環境を利用しており、約30個のマイクロサービスをResource Limits/Requestsなしでデプロイしていました。ある日、特定のAPIエンドポイントへのアクセスが急増し、そのサービスがCPUを過剰に消費し始めました。Resource Limitsが設定されていなかったため、そのサービスは利用可能なすべてのCPUリソースを使い果たし、他のサービスのパフォーマンスに悪影響を及ぼしました。具体的には、データベースへの接続がタイムアウトしたり、APIの応答時間が大幅に遅延したりするなどの問題が発生しました。原因を特定するために、チームは数時間を費やし、最終的には各サービスに適切なResource Limits/Requestsを設定することで解決しました。この経験から、K8sの基本的な設定項目を疎かにすると、大規模な環境では深刻な問題を引き起こす可能性があることを学びました。また、別のプロジェクトでは、GKE環境で、Liveness Probeの設定ミスにより、実際には正常に動作しているPodが頻繁に再起動されるという問題が発生しました。Liveness Probeがアプリケーションの起動完了を正しく検知できず、誤ってPodを異常と判断していたためです。この問題により、サービス全体の可用性が低下し、顧客に影響を与える事態となりました。Probeの設定の重要性を再認識する出来事でした。

修正例

Resource Limits/Requestsを設定していないDeployment定義の例:

apiVersion: apps/v1
kind: Deployment
metadata:
 name: my-app
spec:
 replicas: 3
 selector:
 matchLabels:
 app: my-app
template:
 metadata:
 labels:
 app: my-app
 spec:
 containers:
 - name: my-app
 image: nginx

これを修正し、Resource Limits/Requestsを追加した例:

apiVersion: apps/v1
kind: Deployment
metadata:
 name: my-app
spec:
 replicas: 3
 selector:
 matchLabels:
 app: my-app
template:
 metadata:
 labels:
 app: my-app
 spec:
 containers:
 - name: my-app
 image: nginx
 resources:
 requests:
 cpu: 100m
 memory: 128Mi
 limits:
 cpu: 200m
 memory: 256Mi

【重要】現場で使われる実践的コード・テクニック

このセクションでは、ConfigMapとSecretを使って設定管理を効率化する方法を解説します。具体的には、設定ファイルの管理を容易にし、機密情報を安全に保つという課題を解決し、設定変更の容易性、セキュリティ向上というメリットを得られます。また、DeploymentとServiceの設定例、Ingressを使った外部公開、Horizontal Pod Autoscaler (HPA) の設定例も紹介します。

ConfigMap: 設定ファイルをPodに注入するために使用します。設定値をハードコーディングするのではなく、ConfigMapに定義することで、設定変更を容易にできます。

Secret: パスワードやAPIキーなどの機密情報をPodに注入するために使用します。Secretは暗号化されて保存されるため、セキュリティを向上させることができます。

ConfigMapの例

apiVersion: v1
kind: ConfigMap
metadata:
 name: my-app-config
data:
 database_url: jdbc:mysql://mydb:3306/mydb

このConfigMapをPodに注入する例:

apiVersion: apps/v1
kind: Deployment
metadata:
 name: my-app
spec:
 replicas: 3
 selector:
 matchLabels:
 app: my-app
template:
 metadata:
 labels:
 app: my-app
 spec:
 containers:
 - name: my-app
 image: my-app:latest
 env:
 - name: DATABASE_URL
 valueFrom:
 configMapKeyRef:
 name: my-app-config
 key: database_url

この例では、`DATABASE_URL`という環境変数に、ConfigMap `my-app-config`に定義された`database_url`の値が設定されます。

Secretの例

Secretの作成は、`kubectl create secret generic`コマンドで行います。

kubectl create secret generic my-app-secret --from-literal=db_password=mysecretpassword

このSecretをPodに注入する例:

apiVersion: apps/v1
kind: Deployment
metadata:
 name: my-app
spec:
 replicas: 3
 selector:
 matchLabels:
 app: my-app
template:
 metadata:
 labels:
 app: my-app
 spec:
 containers:
 - name: my-app
 image: my-app:latest
 env:
 - name: DB_PASSWORD
 valueFrom:
 secretKeyRef:
 name: my-app-secret
 key: db_password

この例では、`DB_PASSWORD`という環境変数に、Secret `my-app-secret`に定義された`db_password`の値が設定されます。

DeploymentとServiceの設定例

より複雑なDeploymentの例として、複数のコンテナを持つPodを定義してみましょう。例えば、アプリケーションコンテナと、ログ収集のためのサイドカーコンテナを同じPodで動かす場合を考えます。

apiVersion: apps/v1
kind: Deployment
metadata:
 name: multi-container-app
spec:
 replicas: 2
 selector:
 matchLabels:
 app: multi-container-app
template:
 metadata:
 labels:
 app: multi-container-app
 spec:
 containers:
 - name: app-container
 image: my-app:latest
 ports:
 - containerPort: 8080
 resources:
 requests:
 cpu: 100m
 memory: 128Mi
 limits:
 cpu: 200m
 memory: 256Mi
 livenessProbe:
 httpGet:
 path: /healthz
 port: 8080
 initialDelaySeconds: 3
 periodSeconds: 3
 readinessProbe:
 httpGet:
 path: /readyz
 port: 8080
 initialDelaySeconds: 3
 periodSeconds: 3
 - name: log-collector
 image: busybox:latest
 command: ['/bin/sh', '-c', 'tail -f /var/log/app.log']
 volumeMounts:
 - name: log-volume
 mountPath: /var/log
 volumes:
 - name: log-volume
 emptyDir: {}

この例では、`app-container`と`log-collector`という2つのコンテナが定義されています。`log-collector`は、アプリケーションのログを収集し、標準出力に出力します。`volumeMounts`と`volumes`を使って、2つのコンテナでログファイルを共有しています。

実行結果のサンプル(`kubectl describe deployment multi-container-app`):

Name:                   multi-container-app
Namespace:              default
CreationTimestamp:      Tue, 23 Apr 2024 10:00:00 +0000
... (省略) ...
Containers:
 app-container:
 Image:              my-app:latest
 Port:               8080/TCP
 Host Port:          0/TCP
 ... (省略) ...
 log-collector:
 Image:              busybox:latest
 ... (省略) ...
Volumes:
 log-volume:
 Type:       EmptyDir (a volume that is first created when a pod is deployed and lasts as long as that pod is alive)
 Medium:     
 SizeLimit:  <unset>

次に、Serviceの設定例として、Podの複数のポートを公開するケースを考えます。例えば、アプリケーションが8080番ポートと9090番ポートで異なる機能を提供している場合、それぞれのポートをServiceで公開する必要があります。

apiVersion: v1
kind: Service
metadata:
 name: multi-port-service
spec:
 selector:
 app: multi-container-app
 ports:
 - name: http
 protocol: TCP
 port: 80
 targetPort: 8080
 - name: admin
 protocol: TCP
 port: 90
 targetPort: 9090
 type: ClusterIP

このServiceは、`multi-container-app`のPodに対して、80番ポートを8080番ポートに、90番ポートを9090番ポートにマッピングします。

実行結果のサンプル(`kubectl describe service multi-port-service`):

Name:              multi-port-service
Namespace:         default
Labels:            <none>
Annotations:       <none>
Selector:          app=multi-container-app
Type:              ClusterIP
IP Family Policy:  SingleStack
IP Families:       IPv4
IP:                10.96.0.100
IPs:               [10.96.0.100]
Port:              http  80/TCP
 TargetPort:        8080/TCP
Endpoints:         10.244.0.5:8080,10.244.0.6:8080
Port:              admin  90/TCP
 TargetPort:        9090/TCP
Endpoints:         10.244.0.5:9090,10.244.0.6:9090

このServiceは、Deployment `my-app`のPodにポート80でアクセスできるようにします。`type: ClusterIP` は、クラスタ内部でのみアクセス可能なServiceを作成します。

Ingressを使った外部公開の例

このセクションでは、Ingressを使って外部からServiceにアクセスできるようにする方法を解説します。具体的には、ドメイン名でアクセスをルーティングし、TLSによる暗号化通信を実現するという課題を解決し、外部からの安全なアクセス、柔軟なルーティングというメリットを得られます。

Ingressを使って外部からServiceにアクセスできるようにするには、Ingressリソースを定義します。TLS設定やロードバランシングアルゴリズムなど、より具体的な設定オプションを見てみましょう。

apiVersion: networking.k8s.io/v1
kind: Ingress
metadata:
 name: my-app-ingress
 annotations:
 nginx.ingress.kubernetes.io/rewrite-target: /
 nginx.ingress.kubernetes.io/load-balancing: roundrobin # ロードバランシングアルゴリズム
spec:
 tls:
 - hosts:
 - myapp.example.com
 secretName: my-app-tls # TLS証明書を格納したSecret
 rules:
 - host: myapp.example.com
 http:
 paths:
 - path: /
 pathType: Prefix
 backend:
 service:
 name: my-app-service
 port:
 number: 80

このIngressは、`myapp.example.com`へのHTTPSアクセスをService `my-app-service`に転送します。`tls`セクションでTLS証明書を指定し、HTTPSを有効にしています。`nginx.ingress.kubernetes.io/load-balancing`アノテーションで、ロードバランシングアルゴリズムを`roundrobin`に設定しています。`roundrobin`は、各サーバーに順番にリクエストを振り分けるシンプルなアルゴリズムです。他にも、`least_conn`や`ip_hash`などのアルゴリズムを選択できます。`least_conn`は、接続数が最も少ないサーバーにリクエストを振り分けます。これにより、サーバーの負荷を均等に分散できます。`ip_hash`は、クライアントのIPアドレスに基づいて、常に同じサーバーにリクエストを振り分けます。これにより、セッションの永続性を保証できます。これらのロードバランシングアルゴリズムを適切に選択することで、アプリケーションのパフォーマンスと可用性を向上させることができます。

例えば、ECサイトでカート情報を保持する場合、`ip_hash`を使用することで、ユーザーが同じサーバーにアクセスし続けることができ、カート情報が失われるのを防ぐことができます。一方、APIサーバーのようにステートレスなアプリケーションでは、`least_conn`を使用することで、サーバーの負荷を均等に分散し、全体的なパフォーマンスを向上させることができます。

トラブルシューティングの例として、Ingress Controllerが正しく動作していない場合、`kubectl get pods -n ingress-nginx`でIngress ControllerのPodの状態を確認します。PodがCrashLoopBackOff状態になっている場合は、ログを確認し、原因を特定する必要があります。例えば、`kubectl logs -n ingress-nginx `でログを確認できます。よくある原因としては、設定ファイルの誤りや、リソース不足などが挙げられます。以前遭遇したケースでは、Ingress Controllerの設定ファイルに誤ったアノテーションが含まれており、それが原因でPodが繰り返し再起動していました。正しいアノテーションに修正することで、問題を解決しました。また、DNS設定が正しくない場合、Ingressにアクセスできません。DNSレコードがIngress ControllerのIPアドレスを指しているか確認してください。`nslookup myapp.example.com`でDNSレコードを確認できます。もしDNSレコードが正しく設定されていなかった場合は、DNSサーバーの設定を修正する必要があります。

実行結果のサンプル(`kubectl describe ingress my-app-ingress`):

Name:             my-app-ingress
Namespace:        default
Address:          203.0.113.10
Default backend:  default-http-backend:80 (10.244.0.7:8080)
TLS:
 myapp.example.com terminates my-app-tls
Rules:
 Host        Path  Backends
 ----        ----  --------
 myapp.example.com
 /   my-app-service:80 (10.244.0.8:8080,10.244.0.9:8080)
Annotations:
 nginx.ingress.kubernetes.io/load-balancing:  roundrobin
 nginx.ingress.kubernetes.io/rewrite-target:  /

Horizontal Pod Autoscaler (HPA) の設定例

このセクションでは、Horizontal Pod Autoscaler (HPA) を使ってPodのレプリカ数を自動的に調整する方法を解説します。具体的には、トラフィックの増減に応じて自動的にスケールイン・スケールアウトするという課題を解決し、リソースの効率的な利用、可用性向上というメリットを得られます。

HPAは、CPU使用率やメモリ使用量などのメトリクスに基づいて、Podのレプリカ数を自動的に調整します。

apiVersion: autoscaling/v2beta2
kind: HorizontalPodAutoscaler
metadata:
 name: my-app-hpa
spec:
 scaleTargetRef:
 apiVersion: apps/v1
 kind: Deployment
 name: my-app
 minReplicas: 1
 maxReplicas: 10
 metrics:
 - type: Resource
 resource:
 name: cpu
 target:
 type: Utilization
 averageUtilization: 70
 - type: Resource
 resource:
 name: memory
 target:
 type: AverageValue
 averageValue: 200Mi

このHPAは、Deployment `my-app`のCPU使用率が70%を超えた場合、またはメモリ使用量が200Miを超えた場合に、Podのレプリカ数を自動的に増やします。`minReplicas`と`maxReplicas`で、レプリカ数の最小値と最大値を設定します。CPUとメモリの両方を監視するように設定を変更しました。`averageUtilization`はCPU使用率の目標値を、`averageValue`はメモリ使用量の目標値を表します。スケールアウトは、CPU使用率またはメモリ使用量のいずれかが目標値を超えた場合に発生します。スケールインは、CPU使用率とメモリ使用量の両方が目標値を下回った場合に発生します。スケールインのタイミングは、`horizontal-pod-autoscaler-downscale-stabilization`というパラメータで調整できます。これは、スケールインの判断を行う前に、メトリクスが安定している必要がある時間を指定します。デフォルトでは5分に設定されています。

HPAが実際にスケールアウト/スケールインするか確認するには、まずDeploymentに負荷をかけます。簡単な方法としては、`while true; do wget -O /dev/null http://myapp.example.com; done` のようなコマンドを実行して、CPU使用率を上げることができます。しかし、より現実的なシナリオを再現するためには、ロードテストツール(例えば、Apache JMeterやk6)を使用することをお勧めします。これらのツールを使用すると、アプリケーションに実際のユーザーと同じような負荷をかけることができます。例えば、k6を使って、100人の仮想ユーザーが同時にAPIエンドポイントにアクセスするシナリオを定義し、それを1分間実行することができます。k6のインストールと実行例を以下に示します。

# k6のインストール (macOSの場合)
brew install k6

# k6のスクリプト例 (script.js)
import http from 'k6/http';
import { sleep } from 'k6';

export const options = {
 vus: 100, // 仮想ユーザー数
 duration: '1m', // テスト期間
};

export default function () {
 http.get('http://myapp.example.com/api/endpoint');
 sleep(1);
}

# k6の実行
k6 run script.js

上記を実行後、`kubectl get hpa my-app-hpa`でHPAの状態を確認します。`CURRENT/DESIRED`列に、現在のレプリカ数と目標レプリカ数が表示されます。CPU使用率が目標値を超えると、レプリカ数が増加するはずです。スケールアウト後、負荷を停止すると、CPU使用率が低下し、最終的にスケールインします。`kubectl get deployment my-app`でDeploymentの状態を確認すると、実際にPodのレプリカ数が増減していることが確認できます。

注意点として、HPAはDeploymentのResource Requestsに基づいてスケールアウトの判断を行います。Resource Requestsが設定されていない場合、HPAは正しく動作しません。また、アプリケーションがスケールアウトに対応できるように設計されている必要があります。データベース接続数やファイルディスクリプタ数などが上限に達すると、スケールアウトしてもパフォーマンスが向上しない場合があります。このような場合は、アプリケーションの設定を見直すか、データベースやファイルサーバーなどのバックエンドシステムをスケールアウトする必要があります。以前、HPAを設定したにも関わらず、スケールアウトが正しく動作しないという問題に遭遇しました。原因を調査した結果、アプリケーションのデータベース接続数の上限が低く設定されており、スケールアウトしてもデータベースへの接続がボトルネックとなり、パフォーマンスが向上していなかったことが判明しました。データベース接続数の上限を増やすことで、スケールアウトが正しく動作するようになりました。

実行結果のサンプル(`kubectl describe hpa my-app-hpa`):

Name:                                                  my-app-hpa
Namespace:                                             default
CreationTimestamp:                                     Tue, 23 Apr 2024 10:30:00 +0000
Reference:                                               Deployment/my-app
Metrics:
 ( current / target )
 resource cpu current: 85%, target: 70%
 resource memory average: 250Mi, target: 200Mi
Min replicas:                                            1
Max replicas:                                            10
Deployment pods:                                         (scale up/down is ready)
Conditions:
 Type            Status  Reason            Message
  AbleToScale     True    ReadyForNewScale  recommended size matches current size
  ScalingActive   True    ValidMetricFound  the HPA was able to successfully calculate a new recommendation; the last calculation took less than 300s
  ScalingLimited  False   NotLimited        the HPA is not limited by the presence of limited resources
Events:
 Type    Reason             Age    From                       Message
  ----    ------             ----   ----                       ------
  Normal  SuccessfulRescale  2m30s  horizontal-pod-autoscaler  New size: 2; reason: Current CPU utilization above target (actual: 85, desired: 70)

類似技術との比較

K8sと類似の技術として、Docker SwarmやApache Mesosがあります。それぞれのメリット・デメリットを比較してみましょう。

技術 メリット デメリット
Kubernetes 柔軟性が高く、大規模なシステムに適している。豊富なエコシステム。 学習コストが高い。設定が複雑。
Docker Swarm 設定が簡単。Dockerとの親和性が高い。 機能が限定的。大規模なシステムには不向き。
Apache Mesos 多様なワークロードに対応できる。 設定が非常に複雑。エコシステムが限定的。

システムの規模や要件に合わせて、最適な技術を選定することが重要です。現代のクラウドネイティブなシステム開発においては、Kubernetesが最も有力な選択肢と言えるでしょう。

今後の学習ステップ

K8sの基本的な概念を理解したら、次は以下の技術を学習することをおすすめします。

  • Helm: K8sアプリケーションのパッケージ管理ツール。複雑なアプリケーションのデプロイを簡素化できます。Helmは、K8sリソースの定義をテンプレート化し、再利用可能なパッケージ(チャート)として配布することができます。例えば、Webアプリケーションをデプロイする場合、フロントエンド、バックエンド、データベースなどのコンポーネントをそれぞれ個別のチャートとして管理し、それらを組み合わせて一つのアプリケーションとしてデプロイすることができます。Helmは、アプリケーションのバージョン管理、依存関係の管理、アップグレード、ロールバックなどの機能も提供します。これにより、アプリケーションのライフサイクル全体を効率的に管理することができます。
  • Kustomize: K8sリソースの設定をカスタマイズするためのツール。環境ごとに異なる設定を管理できます。Kustomizeは、既存のK8sリソース定義ファイルを変更せずに、環境固有の設定を適用することができます。例えば、Webアプリケーションを開発環境、ステージング環境、本番環境にデプロイする場合、各環境でデータベースの接続先、APIエンドポイント、ログレベルなどを変更する必要があります。Kustomizeを使用することで、共通のベースとなるリソース定義ファイルを共有し、環境ごとに異なる設定をオーバーレイとして適用することができます。Kustomizeは、`kubectl apply -k`コマンドで直接適用できるため、CI/CDパイプラインとの連携も容易です。
  • CI/CD連携: K8sとCI/CDツールを連携させることで、アプリケーションのデプロイを自動化できます。CI/CDツール(例えば、Jenkins、GitLab CI、CircleCIなど)を使用して、コードの変更を自動的に検出し、テスト、ビルド、デプロイを実行することができます。K8sとの連携により、これらのプロセスをコンテナ化された環境で実行し、アプリケーションのデプロイを高速化し、エラーを削減することができます。例えば、コードがGitリポジトリにプッシュされると、CI/CDツールが自動的にDockerイメージをビルドし、それをK8sクラスタにデプロイすることができます。このプロセス全体を自動化することで、開発者はコードの変更に集中し、デプロイ作業に時間を費やす必要がなくなります。

まとめ

この記事では、Kubernetesの基本的な概念から、ローカル環境での学習方法、現場で役立つ実践的なテクニック、そして私が実際に経験した失敗談まで解説しました。K8sは学習コストが高い技術ですが、一度習得すれば、システムの開発・運用効率を大幅に向上させることができます。まずはローカル環境でK8sを触ってみて、その強力さを実感してください。そして、アンチパターンを避け、実践的なテクニックを習得することで、K8sを自信を持って使いこなせるエンジニアを目指しましょう。継続的な学習と実践を通して、K8sのエキスパートになることを応援しています。

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